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東京高等裁判所 昭和27年(う)1970号 判決 1952年7月28日

控訴人 原審弁護人 安藤国次

被告人 篠塚昇 弁護人 安藤国次

検察官 吉井武夫関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は末尾に添えた書面記載のとおりであつて、これに対し、次のとおり判断する。

昭和二十六年十二月二十日最高裁判所規則第十五号(刑事訴訟規則の一部を改正する規則)に、刑事訴訟規則(昭和二十三年最高裁判所規則第三十二号)の一部を次のように改正する。――中略――第四十四条を次のように改める――中略――この規則は昭和二十七年二月一日から施行する――後略――とあつて、その改正前の同条とその改正後の同条とを比較対照して見ると、改正前の同条には公判調書には、次に掲げる事項その他一切の訴訟手続を記載しなければならない。とあつて、その次に第一号乃至第十七号として、公判調書に記載すべき各事項が列挙されているのであるから、改正前の同条によれば、右列挙の各事項は勿論いやしくも公判廷において為された訴訟手続は一切これを公判調書に記載しなければならなかつたのである。しかるに、改正後の同条はその第一項において、公判調書には、次に掲げる事項を記載しなければならないとあつて、次に第一号乃至第三十一号として公判調書に記載すべき必要事項が列挙されており、同条第二項において、前項に掲げる事項以外の事項であつても、公判期日における訴訟手続中裁判長が訴訟関係人の請求により又は職権で記載を命じた事項は、これを公判調書に記載しなければならない。と定め、もつて、前記列挙事項以外の事項は右のごとく裁判長がこれを公判調書に記載すべき旨を命じたときに限り、該事項の記載を為せば足ることを規定しているのである。ところで、記録に徴すると、昭和二十七年四月一日附原審第一回公判調書には、検察官は別紙証拠関係目録記載のとおり証拠調を請求し、裁判官は同目録記載のとおり証拠決定を宣した旨の記載があるから、右記載のみによれば、原審は何等被告人又は弁護人の意見を聴かないで右の決定を為したかの感があるけれども、前記改正後の現行刑事訴訟規則第四十四条は刑事訴訟法第三百二十六条所定の同意があつたこと及び取り調べた証拠の標目及びその取調べの順序を記載すべきことを定めているほか、裁判所が同規則第百九十条第二項所定の意見を聴いたことや証拠調の方法を公判調書に記載すべきことを命じていないのみならず記録に徴しても原審裁判官においてこのことを公判調書に記載すべき旨を命じた形跡はない。してみれば改正後の現行刑事訴訟規則が施行された日以後である所論昭和二十七年四月一日の原審第一回公判期日における訴訟手続について作成された公判調書が右改正後の刑事訴訟規則に準拠しているのは、もとより当然であるから同公判調書に裁判所が同規則第百九十条第二項所定の意見を聴いたことの記載がないからといつて、これをもつて、右公判期日において、かかる手続が履践されなかつたものと断定することはできない。しかのみならずもし、公判期日において、右手続が履践されないで尓後の訴訟手続が進められたとすれば、検察官、被告人又は弁護人はこれに対し、刑事訴訟法第三百九条第二項所定の異議を申し立てることができるのであり、前記改正後の刑事訴訟規則第四十四条はその第一項第十三号において、刑事訴訟法第三百九条の異議の申立及びその理由を公判調書に記載すべきことを明記しているのにもかかわらず、該調書を見ても公判手続終結に至るまでに右異議の申立があつた旨の記載は何等これを発見することができない。記録を精査しても、かかる異議の申立が為された形跡はないのである。そして、かかる事実と右公判調書末尾に添附してある証拠目録の記載とを綜合すると、検察官は原審第一回公判期日において、甲一乃至甲八の各書証計九通の証拠調を請求し、裁判所はこれ等書証全部の証拠調をすること及びこれ等を証拠とするについて被告人又は弁護人の意見を求めたところ、被告人又は弁護人は右証拠調には異議がなく、これ等書証全部を証拠とすることに同意し、裁判所は右書証全部の証拠調を為すことを決定し、甲一乃至甲八の順序に従つて右書証九通全部の証拠調を施行し、ついで、弁護人は遠藤勝二を証人として取り調べられたい旨を請求し、裁判所は検察官に対し、同人を証人として取調べることについての意見を求め、検察官はこれが証拠調には異議がない旨を述べ、裁判所は引き続き同人を証人として取調べた後、所定の手続を経て審理を終結した上、判決言渡期日を指定告知したことを窺い知ることができる。されば、原審の訴訟手続にはこの点に関し、何等違法の廉はないものと推認することを得べく、従つて原判決には所論の違法はない。論旨は理由がない。

右の次第であるから、刑事訴訟法第三百九十六条、第三百七十九条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)

控訴趣意

原判決は訴訟手続に法令の違反があり且その違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであると思料する。即ち原審公判調書によるときは 検察官 別紙証拠関係目録記載の通り証拠調を請求した。裁判官 別紙証拠関係目録記載の通り証拠決定を宣告した。 弁護人 取調べた証拠の標目 証人遠藤勝二別紙調書のとおり と記載せられあり、之に依つて之を観る時は検察官が証拠の目録記載の証拠の取調を請求したる時は裁判官は弁護人に同意の有無を求めざるべからざるに之を求めずして直ちに証拠決定を宣したる事は訴訟手続に法令違反あるものと信ず。只弁護人「取調べた証拠の標目 証人遠藤勝二別紙調書の通り」と記載せられあるは検察官の請求したる証拠の標目に同意したと云う意味に非ずして弁護人側の取調べた証拠の標目は証人遠藤勝二にしてその証拠は別紙調書の通りと解すべきものである。果して然らば検察官の取調請求した証拠に付ては弁護人に何等意見を求める形跡毫もなく然かも原判決が引用した証拠の庄司隆作成の盗難被害始末書、司法巡査乾喜三郎外一名作成の被告人に対する現行犯人逮捕手続書に付ても前記の如く弁護人の意見を求めず直ちに証拠決定をしたる訴訟手続に関する法令違反の違法あるものと信ず。剩へ朗読したる形跡もなきは更に違法の加重と云はねばならないので到底証拠に引用することは出来ない。従つて此の違法の部分を除く時は原判決挙示の証拠は只被告人の原審公廷における供述のみである。仮令公判廷に於ける自白と雖只之のみを以てしては有罪の憑拠ることの出来ない事は既に判例の示す所である。斯かる故に判決に影響を及ぼす法令の違反ありとするものでとすある。

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